骨盤外傷の概要
骨盤外傷とは、生命に危機を及ぼし、著しい機能障害を生じる重大な損傷で、日本では歩行者の交通事故や墜落事故で骨盤損傷を合併する場合が多く、死亡原因の多くが骨折に伴う血管損傷からの大量出血です。

画像引用:https://panasonic.jp/life/health/160009.html
骨盤周辺の血管は腹部大動脈から左右2本の総腸骨動脈に分かれ、総腸骨動脈は内腸骨動脈と外腸骨動脈に分かれます。
内腸骨動脈は骨盤の後方部分に分布しており、骨盤骨折において破綻しやすく、また豊かな側副血行路が発達しており、破綻した血管からの出血は容易に止まらず大量出血に至ります。
骨盤骨折による後腹膜出血は、4000mlとされています。
骨盤骨折
骨盤は背部後方に仙骨、左右に腸骨・坐骨・恥骨があり、これらを寛骨と呼び2カ所以上骨折すると不安定性が生じます。

骨盤骨折の分類で安定型とは、骨盤輪の構造が保たれている部分的な骨折です。不安定型とは、骨盤輪の構造が破綻された骨折です。
不安定型の場合、血管損傷の危険性が高く一層の注意が必要です。
観察項目・看護のポイントは下記で説明していきます。
観察項目・看護のポイント
骨盤部もしくは股関節部に疼痛がある場合、または重度外傷がある場
合は骨盤骨折を考慮する。
primary survey
単純X線撮影:大量出血を来す不安定骨折の有無
Secondary survey
3DCT撮影:骨折部位の評価
造影CT:血管損傷の評価
観察項目
- 骨盤付近の打撲痕
- 腰部の強い痛み
- 骨盤動揺
- 下肢長差
- ショック徴候
(顔面蒼白・虚脱・冷汗・呼吸不全・脈拍触知不能)
膀胱・直腸・子宮などの骨盤内臓器の合併損傷の有無:血尿、下血、おりものの性状
膀胱直腸障害や性機能障害の合併損傷の確認
重症骨盤骨折があると判断された場合は膀胱直腸肛門などの骨盤内臓器の合併損傷や骨盤周囲神経の損傷による膀胱直腸障害や性機能障害の合併損傷の確認も行っていきます。
背面観察時や移動時は二次損傷や循環変動を最小限に抑えるためログリフトを行います。ログロールは禁忌です。
治療・処置
骨盤骨折
- サムスリング

画像引用:http://www.accord-intl.com/products/care/samsling/sam4122.html
急性期の治療・処置ではまず骨盤骨折が疑われる場合サムスリングなどの簡易固定法を行います。
- 創外固定・Pelvic C-clamp

創外固定法:両側の腸骨稜に数本のピンを刺し、左右のピンを金属フレームで橋渡しさせ固定します。
Pelvic C-clamp:整復固定により骨折部を密着させ、開大した骨盤腔を狭小化させることで止血効果を得る目的で行います。
出血コントロール
Damage control surgery( DCS)
- REBOA(大動脈内バルーン遮断)
- 骨盤ガーゼパッキング
血管造影+経力テーテル的動脈塞栓術(TAE)
Secondary surveyにて腹腔内・骨盤内に出血が疑われた場合はcontrol surgery(DCS)(REBOA:大動脈内バルーン遮断、骨盤ガーゼパッキング)や血管造影+経カテーテル的動脈塞栓術(TAE)を行います。
REBOA(大動脈内バルーン遮断)

画像引用:https://www.uptodate.com/contents/image?imageKey=SURG%2F116317
EBOAとはバルーンカテーテルを大動脈内に留置することで出血をコントロールする方法です。
看護としては、インフレート、デフレート時間を正確に記録します。臓器虚血を来すため、尿量確認、下肢の皮膚色、左右足背動脈の触知、VSの観察を行い刺入部に皮下血腫ないか確認します。
骨盤ガーゼパッキング
下腹部を皮膚切開し、腹膜外から骨盤前面をガーゼなどでパッキングして止血を行う。短時間で施行できるが、感染などの合併症を生じる可能性がある。
出血量、ガーゼカウント、尿量確認、下肢の皮膚色、左右足背動脈の触知、VSの観察、刺入部の皮下血腫の有無を観察します。
記録には出血量、ガーゼカウント、尿量、バイタルサインの変化などの記録を行います。
血管造影+経カテーテル的動脈塞栓術(TAE)
経皮的に動脈を穿刺し、セルジンガー法でカテーテルを動脈内に挿入し血管内の損傷部位を確認する。出血部位に金属コイルやゼラチンスポンジを用いて止血する。
大量輸液・輸血、固定後に循環動態が改善しない重症例の多くが内腸骨動脈からの出血によるものでありTAEの適応となります。
またCTで出血が確認された場合も、その後の循環不全が予測されるためTAEの適応とたなります。
まとめ
骨盤外傷の死亡原因は骨折に伴う血管損傷からの大量出血。
出血のコントロールが予後の改善につながるため全身の観察を行うと
ともにVSの変化に注意します。
すばやく治療につなげられるよう薬剤・処置物品は事前情報を元に準備しておきます。
骨盤骨折では背面観察時にログロールが禁忌であるためログリフトいます。そのため分担、人員確保が必要です。